Question「MotoGPで必要不可欠な存在になっているシームレス・ギアボックスについて教えてくれませんでしょうか?デュアル・クラッチ・トランスミッションは多くの車に装備されていますが、それらと同じような機能なのでしょうか」
Answer「レーシング・バイクは一般的にアップシフトにはクラッチを使いません。シフトがスムーズに行くように、シフトリンクからエンジンの点火をカットして、瞬間的にギアに加わっているトルクを弱めることで、シフトをスムーズに行います。クイックシフトとも呼ばれる、この装置によって、クラッチで一時的にトルクをカットすることがないので、非常に素早いシフトが可能になります。
しかし、IMU(Inertial Measuring Units)という慣性計測装置(ジャイロセンサー、加速度計などを組み合わせて、車体の姿勢を検出する装置)のデータを見ると、このようなクイックシフトを使ってアップシフトをしても、シフトの瞬間にバイクが後ろ向きにピッチングします。このようなシフトショックのいくらかはサスペンションや、タイヤによって吸収されます。
もし、バイクがコーナーの出口で加速していくときに、このような前後の動きによって、タイヤへの荷重が前から後ろ、後ろから前へと変化することになります。これではタイヤに十分なグリップが得られず、タイヤのポテンシャルを使い切れないかもしれません。
シームレス・ギアボックスは自動車のようにニュートラルを介して次のギアへシフトするのではなく、現在のギアが回転している時、すでに次のギアも回転しています。これは
・アップシフトの間、常にリアタイアがドライブしている
・クラッチによるショックがかなり小さい
という違いがあって、更にエンジンのエレクトロニクスによって、よりソフトにシフトが行われます。
MotoGPで初めてシームレス・ギアボックスが登場したのは、2011年、ホンダのファクトリー・マシンでした。当時、一回のシフトで0.012秒ラップタイムが縮まると考えると、一周で30回シフト操作があれば、一周 0.012×30=0.36秒ラップタイムが改善されると考えられていました。
けれども、ライダー達が感じたのは、そういった計算では無いところにありました。シフトがよりスムースに、コーナーの出口での加速がより滑らかになったのです。
アップシフトでのシフトショックが限りなく小さくなったことで、ショートシフトをしなければならない場合や、オーバーレブしてエンジンを引っ張ったりする必要がなくなり、ライダーの走りの選択肢が増える結果になりました。
ダウンシフトの場合には、シームレス・ギアボックスはブレーキングの安定性の面でも(シフトのショックを考えなくて良いので)有利です。ヤマハもホンダのようにシームレス・ギアボックスを導入しましたが、最初はアップシフトのみ有効なもだったので、ダウンシフトも出来るギアボックスが完成するまでは、ブレーキングの安定性で利点を得られずにいました。
詳細はGoogleで”Honda seamless gearbox"と検索したら、ホンダが取得した特許の図面を見ることが出来ると思います。
ホンダのデザインでは、非常に小さなパーツに非常に大きな力が加わると考えられますので、メンテナンスのサイクルが非常に早いことでしょう。このギアボックスには一人のエンジニアが付きっきりで、誰の目にもつかないところでメンテナンスを行います。毎年のシームレス・ギアボックスをリースするコストは、30万ユーロ(日本円で約3700万円:2016年4月14日現在)にもなります。
From cycle world
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