もしかしたら、マルケスはもう一つの勝利を逃していたのかもしれない。
オースティンでのレースは、マシュー・バートによって、結果とは別のストーリーとして記憶されることになるだろ。
マルケスが逃した勝利とは.. |
マルク・マルケスがウィリーをしながら、チェッカーを走り去り、4連勝を飾った光景は、今年のアメリカスGPの中で一番の印象的なシーンではないのかもしれない。
それはダニ・ペドロサがアンドレア・ドヴィチオーゾに対して、一度でなく二度にわたって謝罪していた光景がテキサスでの記憶として、いつまでも残っていくだろうからだ。
2015シーズンの終盤で起こった出来事を経験し、我々はモーターサイクル・レーシングにおける、ある種のスポーツマンシップが、それらを払拭してくれることを期待しているような雰囲気が広がっていた。ペドロサは背丈の小さなライダーであるが、大きなハートの持ち主であることを示した。
パワーに劣る、彼のRC213Vは、アメリカスの独特なファースト・コーナーで、魚雷のように地面を転がったが、ペドロサはそのミスを正そうとした。そのことは世界から賞賛を得る価値のあるものであった。
7日間で二回も他のライダーからの突撃を受けた、ショックを受け止めようとしていたドヴィチオーゾに対して、ペドロサは転倒した自分のマシンを出来るだけ早く立て直そうとしたのではなく、ドヴィチーゾにケガがないか確認しに行ったのだ。
マシンを立て直すことなく、真っ先にドヴィチオーゾの安全を確認しに来たペドロサ |
ペドロサがレースをリタイアしたことは痛恨であったが、彼はレプソル・ホンダのスタッフに全てを話し、ドゥカティを訪れことの詳細を説明しに出向き、和解を求めた。
ペドロサは世界選手権に長く戦っており、愚かなリスクを冒さずとも、レースが十分に危険なものであることをよく知っている。
アルゼンチンGPで、イアンノーネにペナルティが課せられた、ドヴィチーゾを退場に追いやった出来事はイアンノーネがリスクを超えてそれ以上を求めに行った結果起こったことである。
イアンノーネは彼を押しのけ、2000年のアラゴンGP以来のドゥカティのダブル表彰台を、あと50メートルのところで逃した。
ペドロサは無理なオーバーテイクを試みたのではない。彼はミスを犯したが、それを白状し、真に後悔していた。
彼は41メータの高さを誇る、アメリカスサーキットの第一コーナで、フロントをロックさせてしまった。
彼はホンダのマシンをなんとか立て直そうとコントロールしたが、もはや手遅れであった。彼はかつてのHRCのチームメートのドヴィチーゾに向かって行ったのだった。
マーティン・ルーサー・キング, Jrは、かつて「 人は、自分が快適な状況の時に評価されるのではなく、チャレンジや論争の中にある時に本当の評価がされる」と語っている。
ペドロサは巨人の間に立っている。オースティンで彼は自身の起こした事故について完全に避難を受け止めたが、それは初めてのことではない。
それはほぼ10年前、かつてのチームメートのニッキー・ヘイデンが、ワールドチャンピオンまであと一歩のところで、彼を転倒リタイヤさせたことがあったのだ。
ペドロサは避難されたが隠れたりはしなかったし、大きな決心をして、人生の目標とも言えるチャンピオンの夢が遠のいて、ひどく取り乱したヘイデンのモーターホームに出向いて謝罪し、握手を交わしたのだ。
ペドロサ:かつてチームメートを巻き込んで転送したことも |
これをするのは簡単なことではかっただろう。ヘイデンの怒りはグラベルの上でも、その後のメディアの取材時にもなんども感情をあらわにしていた、経験した会見で最も記憶に残るものの一つだ。
ドヴィチオーゾに関しては、ツキのなさと幸運を祈るコメントを残しているが、表彰台のチャンスはペドロサによって奪われ、結果はよりひどいものとなった。
唯一の救いは彼がペドロサのマシンがぶつかってきたことで怪我をしなかったことだろう。
2017年の、ファクトリー・ドゥカティのシートは両方とも空席であり、誰がそのシートに座るのか騒がれているが、ドヴィチオーゾのこの不運は、あまりいいタイミングではないだろう。現状ではイアンノーネが有力との意見が多いようだ。
しかし、ドヴィチオーゾはこれまでのドラブルがなかったとしたら、マルケスに最も近いチャレンジャーであっただろう。ペドロサ、イアンノーネ、ホルヘ・ロレンソ、バレンティーノ・ロッシは自らのミスによってポイントを失っているが、ドヴィチオーゾは、ここ2レースの他のライダーからの衝突によるリタイアがなければ36ポイントを稼いでいただろう。
25戦ぶりに転倒したロッシ |
ペドロサがエストリル・サーキットでヘイデンをコースアウトさせた後、ヘイデンは有名な言葉を造った。
”何が起こってもおかしくない、これがMotoGPだ。それが僕たちがここにいる理由なんだ”
そして10年前の最終戦バレンシアで起こったことを我々は覚えている。(ヘイデンはこの年、チャンピオンに輝いた)
2006年のヘイデンのように、ドヴィチオーゾは巻き返してくるだろう。そしてペドロサも。
この二人のグッドマンを低迷させ続けることは出来ない。
開幕戦から強い走りを見せてきた ドヴィチオーゾ |
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